ガチャッ。
私はちょっとお酒のせいで熱くなってきた頭を冷やすために、外に出た。
晩秋の夜は正直言ってかなり冷える。
だが、その冷たさも酔い覚ましにはちょうどいいくらいだった。
「ん?綾乃、どっか行くのか?」
玄関のドアを開けたばかりの私に声をかけたのは和也だった。
「うん、ちょっと酔いを覚ましに散歩でも行こっかなって」
「ああ、それなら俺もついてくよ。便所行ってちょっとは覚めるかと思ったけどどうにも頭が冴えないからな」
「あんたの頭なんて年中冴えてないじゃない」
笑いながら私が突っ込む。
「お前、だんだん正確が越智に似てきたな…」
「まぁそのへんは気にしない。行くなら行こうよ。さっさと行って、早めに戻ってこよう」
「そうだな」
そうして、私達二人は特に目的も無く、家から南に向かった。
「確か、和也の家ってうちから結構南のほうにあるのよね」
「そうだけど、俺ん家行くのか?」
「そんなわけないでしょ。聞いてみただけ」
そんな話をしながら10分ほど歩くと、踏み切りにさしかかる。
その踏み切りを渡ってすぐのところに、公園があった。
こんな所に公園があったことは知らなかったが、何故か来た事があるような公園だった。
公園の時計が指す時間はだいたい11時過ぎ。
もちろん、誰もいるはずはなかった。
「へぇ…こんなところに公園があったんだ」
「結構近くなのに、知らなかったのか?」
「うちから南のほうに出る事って、まずないから…」
「俺はこの公園の前を毎朝通って学校に行ってるから、一応あることは知ってたけど」
「でも…」
私は公園のブランコに腰掛ける。
ごく普通の公園だった。ブランコがあって、ジャングルジムがあって、滑り台があって、砂場があって…
そんなどこにでもありそうな公園だった。
「私、何故かこの公園に来たことがあるような気がする…」
「そうなのか?」
和也も隣のブランコに腰を下ろす。
「うん…それも、ずっと昔。本当に私がまだ小さい頃…ここで遊んだような…」
「う〜ん…残念だけどそれはないぞ。ここの公園、つい2〜3年前にできたとこだからな」
「そうなの?」
「後ろのマンションと一緒にできたからな。それ以前にここがどうなってたのかは知らないけど、この公園が
出来たのは間違いなく2〜3年前だぞ」
「…」
どこで見たんだろう、この公園。
ただ単に似ているだけなんだろうか。
「なぁ、綾乃」
「うん?」
不意に和也が声をかけてきた。
「上、見てみろよ」
「え?あ…」
空は雲一つなく、快晴だった。
ここが都会とは思えないほどの数の星が見えた。
月も、満月とはいかないものの、後2〜3日で満月になろうかという大きさだった。
月光がここまで眩しく感じたのは初めてのような気がする。
「綺麗だね」
「そうだな…」
目に見えるものは月と満天の星。
聞こえるのは僅かに通り過ぎる車と電車、それに踏み切りの警報音。
それだけの世界だった。
「ま、そういうこった」
またも不意に和也が口を開く。
「?」
「あんまし考えすぎんなってこと。公園がどうだこうだなんてくだらないことで悩んでたら頭にシワができるぞ」
「…」
「ま、いい天気だし、気分転換できたろ?」
「…あ…そっか…私、なに考えてたんだろ」
そうだ。私はここに酔いを覚ましに来たんだった。
悩んで頭を使うためではなく、ゆっくり頭を休めるために来たんだった。
和也は和也なりに気を使ってくれているのが分かった。
「そうだね…ありがと、和也」
「ど〜いたしまして。それに俺もなんかこの公園には以前から見覚えある形してるなって思う」
「そうなの?」
「ああ…俺は早くに両親を失って、しばらくは別の場所で暮らしてたから、本当はこんな場所知ってるはずも
ないんだけどな」
「ふ〜ん…」
「…」
しばらく、2人の間を沈黙が走った。
「いっしょだったら…いいね」
「え?」
先に話しかけたのは私。
「いや、和也の思いでの場所と、私が見た事ある、ここに似た場所がいっしょだったらいいねって」
「それだったら、俺達はもともと幼馴染みだったってことか?」
「だったらいいねってだけですよ〜だ」
「お前、まだ酔ってるのか?」
「そうかもね」
「嘘ばっか…本当に酔ってたら否定するだろ。お前はそんな奴だ」
「どうして分かるの?」
「さっきの記憶もないのか…こいつと酒を飲むのはちょっと危険かもな…」
「う〜ん…気になる」
どうやら私はお酒を飲むと記憶がなくなるらしい。
自覚はまったくないのが自分でも少し怖かった。
「まぁ、帰ったら話してやるよ。そろそろ戻ろう。冷え込んできたし、あの2人を待たせるのもなんだしな」
「そうだね。んじゃ、行きますか」
私はブランコから立ち上がる。
さっきまで人を乗せていたブランコは不規則に大きく揺れる。
そして、私の隣にあるブランコも。
ここは…正直言って寒い。
でも、不思議とさほどの寒さは感じなかった。
なにか、暖かい雰囲気を感じた気がした。
「…また、この公園に来よっか?2人で」
「ん?なんて?」
「ううん、なんでもない」
心の中で呟いただけのつもりだったが、つい口に出かかっていたらしい。
でも、その気持ちは私の心の奥にあるということを、私は自分の中で再認識した。
「あ、そうそう、一応そこの自販機でジュースでも買っていこうぜ。あの2人もたいがい、そろそろ
まいってる頃だろうしな」
「そうだね。意外と気がきくとこあるじゃん」
「お前、やっぱり越智に似てきたな…まぁいいけどさ…」
そして、踏み切りの音が鳴り響く公園を離れ、私達は家に戻った。
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