日が暮れる。
私達三人は、家に帰る前に近くのスーパーで買い物を済ませ、出てきたところだった。
ちょうど、夕日の赤が街を覆っていた。
「…赤いね、何もかもが…」
「うん…」
私は、赤という色が嫌いだ。
「赤というよりは、だいだい色って感じだね」
だから、夕日の色はだいだい色。
熟した蜜柑のようなだいだい色。
「あ、そっか…綾乃は赤って好きじゃなかったよね」
「まあね」
「でも、いい時間帯に出てきましたね。お空、本当に綺麗ですよ」
佐伯さんが、夕日とはやや違う角度を見上げながら呟いた。
「ほら、大体あの辺りまではだいだい色なのに、あそこを境に空がまだ青いですよね」
夕日は街を照らしている。
だから、街のものはすべてだいだい色に染まる。
でも、空の遠くまではだいだい色にはならない。
日光が唯一届かない、いや届いていても、唯一染める事の出来ない場所。
そして、その境目に目を奪われそうになる。
なんとも、曖昧な色だ。言葉では表現できない。
だが、やはりそれは際立って美しく見えた。
それこそ、朝に私達が吐く白い息が透明に溶け込む瞬間のように。
「お、ちょうどよかったな」
後ろから。和也の声だ。
「あ、うん、じゃ、行こっか」
少しの間、空にみとれて棒立ちになっていた私達は、再び帰路についた。
「お邪魔しま〜す」
この家に私の友達をいれるのは二週間ぶりだ。
その時は珪子一人だけだったけど、今日はそれに加えて二人。
四人で夕食を食べるなんて、もともと三人家族だった私にとっては本当に久しぶりだった。
そして、そんな機会を作ってくれた友達にも、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「…で、なんでお好み焼きなんだよ」
「うん?たこ焼きの方がよかった?」
ただ、内容はどうやら普通じゃなさそうだ。
「そうじゃないだろ…普通こうやってみんなで飯食うって時は、鍋をつつくってのが常識だろうが」
「いつ誰がそんな常識作ったのよ。あんまし勝手な事ばかり言わないでよ」
「言われなくてももうこんな時期なんだから、鍋にしようとか思うだろが!いくらなんでもお好み焼きは
フツーの女の子の発想じゃねーぞ!」
「んじゃ和也、あんた食べなくてもいいわよ。好きにすれば?」
「う…相変わらず冷てー奴だ…」
というわけで、今、私達はお好み焼きを作っている。
私が粉を水に溶かしながら必要な具を用意し、珪子と佐伯さんはキャベツや豚肉を切っている。
和也はさっきからブーたれてるだけで何もしていない。
「まあまあ、それだったら、少しは手伝ってよ」
「ったく…しゃーないなぁ…。で、何をすればいいの?」
「じゃあ、とりあえずお好み焼きをひっくり返す役」
よく考えてみれば、今は三人で充分すぎるほど人手は足りている。
なら、空いてる仕事はこれくらいのものだ。
「はいはい。わーっかりました」
まるで小学生のようにふてくされた顔で和也はしぶしぶ承諾した。
「焦がしたら全部あんたの責任だからね」
珪子が台所の奥から鋭いツッコミをいれる。
「んなもん、言われなくても分かってるし、焦がさねーよ。お前じゃないんだから」
「んじゃ、口だけじゃないところ、今度こそ見せてよね」
やれやれ。
何をするにしてもこの二人は口喧嘩が絶えない。
まぁ、『喧嘩するほど仲がいい』とはよく言ったものだ。
佐伯さんが珪子の横で、私に向かって苦笑いした。
多分、私と同じような事を考えたのだろう。
私も佐伯さんと同じように、二人の様子を見て苦笑する。
勿論、当の本人達は全く気付いてもいないだろうけど。
日が暮れ、風が冷たさを増してくる頃、私は飲み物の買い出しに向かった。
と言っても、家から歩いて3分ほどのところに酒屋があり、そこの前に結構たくさんの自販機があるので
さほどの苦労ではないのだが。
買えるだけ、持って帰れるだけの量を抱えて、家に戻ってきた。
「ちょっと、綾乃ぉ!」
いきなり、珪子の声がした。
「うん?けいちゃん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも…このお好み焼き、もとの生地が柔らかすぎない?」
「え…?」
私が帰ってきた頃には、もうすっかりお好み焼きは焼きあがっていた。焼き具合も色から判断すれば問題なさそうだ。
「それって…つまり、私が何か分量を間違えたってこと?」
「それ以外に考えられねーよ!俺だってかなり注意払って焼いてんだぜ」
「あの…これって…」
突如、佐伯さんが話に入り込む。
「え?」
手には山芋の皮が1個分。。
通常はこれくらいの大きさでは山芋は5cmくらいのやつひとつで充分事足りる。
しかし、この皮の長さはどう考えても8cmはあろうかという大きさを感じる。
ということは…。
「綾乃…やっぱしあんたが犯人ね…」
「は、犯人って…別に食べれない事はないし…」
「じゃ、食べてみてよ」
珪子はこのままだとどうあがいても引いてはくれないだろう。
仕方なく、円形のお好み焼きを6等分し、その一切れを食べる。
「う…確かに…」
味は決して悪くない。
天かすの油が悪いとか、お肉がいたんでたとか、そういうこともない。
ただ、口当たりはなんか、どう表現していいのか、なんとなく『ぐにゃぁ』って感じだった。
「まぁ、この分じゃ5枚も焼けないからいいけど、次に作る時は山芋の量考えてよね」
「はい…」
どうやら単なる執行猶予付きで釈放されたようだ。
とはいえ、うっかりしていた。以後気を付けよう。
「それで綾乃、飲み物買って来たんだよね?」
「あ、うん。はい。これだけあれば大丈夫だと思うけど」
「う〜ん…ビールもっと欲しかったな…」
「まぁ、大胆。女の子3人の前で裸踊りでも見せてくれるの?」
「相変わらず一言も二言も口の多い奴め…」
「でも、和也の言い分もわからなくもないよね。綾乃ってお酒飲む方なの?」
「う〜ん、あんまし…私、酔うと顔に出るタイプだから」
「佐伯さんは?」
「まだ飲んだ事ないんです。すごく楽しみです〜」
どどっ。
予想はしていた答えだが、何故かそれすら拍子抜けな気がする。
「んじゃ、チューハイでも渡しておいたほうがいいんじゃねーか?手軽なやつ」
「チューハイってなんですか?」
「う〜ん…とりあえずお酒の種類ってだけ言っておくね。焼酎で割るお酒のこと」
「ほぇ〜…」
反応から好奇心旺盛なのが分かるが、それでもどことなく天然な空気を漂わせている。
「んじゃ、とりあえず、飲み物も揃ったし、食べるものも出来あがってるから、そろそろ乾杯とでもいこうか」
和也が全員に提案するように声をかける。
提案するように、というか、提案してるんだよね、これって。
「うん、それじゃ…え〜と、なんだっけ…」
「とりあえず、綾乃の元気が出ることを祈って…」
「あ、それと…」
私が珪子の横から口を挟む。
「佐伯さんが、みんなと打ち解けた事を祝して!」
「え…」
佐伯さんが、やや驚きの表情で私の方を見る。
私は視線だけで彼女に「遠慮しないで」と伝える。
彼女も、それを察してくれたのか、小さくうなずいてくれた。
「乾杯!」
「よし、明日も休みだし、今日は朝まで飲むぞ〜!」
「いきなりオヤジ臭いこと言ってんじゃないわよ!」
「い〜じゃね〜かよ!別にどんだけ飲もうが俺の勝手だ!」
「ダメだわ、こいつ飲む前からもう酔ってる…」
こんな感じで、パーティーの幕は開けた。
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