「なんか、今日、体調でも悪いの?」
 放課後、突発的に珪子が聞いてきた。
 体育の授業はバレーボールだったのだが、どうにもパスミス、サーブミスを連発してしまった。
 「いつもの綾乃っぽくないね…さっき寝てたのって、もしかして…」
 「な…なによ…」
 「あんた、あの日?」
 「っ!?」
 私は周りに人がいない事を確認した後、
 「そんなわけないでしょっ!」
 と大声で否定する。
 「まあまあ、そうムキにならなくてもいいじゃん。でも、やっぱ疲れてるんじゃないかな?昼休みの間はずっと寝てたし…」
 珪子のこの目は、私の事を心配してくれてる目だ。
 そろそろ長い付き合いなので、そういうのは自ずと分かってくる。
 「ん…まあね…別にどうってわけじゃないけど…」
 「そうね…それじゃ、なにか元気のつくことでもしよっか?」
 「どういうこと?」
 「腹が減っては戦は出来ぬ、って言うじゃない。今夜は綾乃の家で友達誘ってパーティーでもどう?」
 「っ!?」
 今のたった数分の会話でニ度も驚かされたのは初めてだ。
 「…ったく、簡単に決めるんだから」
 「あくまで提案よ。まだ決めたわけじゃないし」
 「でも、それだったら、誰を誘うの?今から連絡の取れそうな人って…」
 「とりあえず、御堂のバカは強制ね。あとは…どうしよ?」
 「う…やっぱし勝手に決まってる…」
 なんか簡単に話が進んでいくが、私もまんざらじゃない気分だった。
 こうやって、何かあったら慰めたり励ましあったり出来る友達がいるというのを改めて実感する。
 「あら?まだ残ってたんですか?」
 そう言って、教室のドアを開けて入って来たのは佐伯さんだった。
 「佐伯さんこそ、どうしたの?」
 「私は忘れ物を取りに戻ってきただけなんですけど…」
 「ちょうどいい所に!ねぇ綾乃、折角だから佐伯さんも誘おうよ!」
 「え…でも、佐伯さんって、確かお嬢様でしょ?あんまし遅い時間までいろいろするのは…」
 「今晩、何かなされるのですか?」
 「綾乃の家で、みんなで晩ご飯食べながらパーティーでもしよっかなって。今日、この子元気なかったでしょ?
  だから元気付けにね」
 「へぇ…素敵ですね。私も是非ご一緒させてください」
 「よし!決まりっ!」
 「おっ、綾乃、元気出てきたわね〜」
 「えっ!?」
 なんか、あまりにトントン拍子で話が進んでいくせいか、気が付けば私もそのペースにのせられていた。
 珪子もそうだが、この佐伯さんのペースにも正直ちょっと恐れ入った。
 でもまぁ、こういうのは人数が多いほうが楽しいし、いっか。
 う〜ん…これが彼女達のペースに乗せられてる、っていうやつなんだろうか…。
 
 ここは珪子の家。
 和也に今日のことを伝えた後、私は何故か珪子の母親に1度ここに私を招待して欲しいと頼まれていたらしく、
 私もまんざら悪い気はしなかったのでお邪魔させていただくことにした。
 「んじゃ、荷物下ろして着替えて来るからちょっと待っててね」
 そう言って珪子は居間に私と佐伯さんを通して、自分の部屋に入っていった。
 しかし…。
 「へぇ…越智さんって、すごいところに暮らしてらっしゃるんですねぇ…」
 「うん、私もけいちゃんの家って初めて来たもんだから、ちょっと驚いちゃった…」
 ちなみに、心の中で、『佐伯さんだってすごいところで暮らしてるってば』と付け足しておいた。
 当の本人はそんな事は露知らず、周りを眺めている。
 珪子の家はなんと神社だった。
 すべての部屋が和室になっており、いかにも昔からあると言わんばかりだった。
 壁には昔の大判小判を額縁に入れて飾ってある。
 「あら、珪子のお友達の方ですよね?」
 ふと、後ろから声がした。
 「珪子の母です。日頃から珪子がお世話になっております」
 「あ、どうも。いえいえ、こちらこそいろいろ…」
 珪子の母親は、いかにも日本人的な女性だった。
 とてもつつましやかで、おっとりとした感じだ。珪子とは正直言って似ていない。
 これで和服でも着てたら本当に純日本人だなぁって思う、そんな人だった。
 どことなく、私の母、と言っても育ての母だけど、に似ているような気がしなくもない。
 私の育ての母もまた、結構純和風っぽい人だった。
 「ええと、綾乃さんでしたっけ?珪子から聞きましたよ。ご両親の事は心からお悔やみ申し上げます」
 「あ、いえ…」
 「ですが、貴方のご両親はもうすでに何処からか貴方を見てくださっております。人は死すとも魂は死なず、
  記憶こそ失われど形を変えてこの世に存在しつづけるのです。輪廻転生という、仏教の教えの一つに
  そう言うものがあります」
 「そうですか。…そうだといいですね」
 「神社という、神道を崇める場でこのようなお話をするのもなんですけどねぇ」
 そう言って、珪子の母親は少しだけ笑った。
 その笑顔も素敵で、美しかった。
 私もこんな女性になりたい、そう心から思えた。
 「あ、そちらの方は…」
 「はじめまして、佐伯 由真と申します」
 「これはご丁寧に。珪子の母です」
 二人は深々と頭を下げた。
 「母さぁん、私のコートどこぉ?」
 「クリーニングに出した後クローゼットの中に入れておいたでしょ?」
 「ハンガーにかけて部屋に吊っといてって言ったのにぃ〜。裏切り者〜」
 そんなけたたましいというか、元気がいいと言うか、場の雰囲気とは一風変わった声がこだました。
 「あ、ごめんなさいね。あの子、いつもあんな調子なものですから」
 「いえ、私は彼女のあの元気にたくさん助けてもらってますし」
 その時、微かだが珪子の母親の目元が険しくなったような気がした。
 だが、何事もなかったように、
 「それはよかったです。珪子が人の力になる事が出来ると聞ければ親心ではやはり嬉しいものです。もっとも、
  これが過剰になると親バカなのですけど」
 と言って苦笑する。
 やがて、珪子の準備もできたので、私達はここから私の自宅に向かう事にした。
 「んじゃ、今日は泊まりになるから、晩ご飯はいらないよ」
 「珪子、くれぐれもご迷惑にならないようにね」
 「分かってるって。本当、母さんは心配性なんだから」
 こうやって見てると、やはりこの二人は親子には見えない…。
 「それと、綾乃さん」
 「あ、はい」
 「…よろしけば、またいらして下さいね。今度はなにか今日のお礼がしたいですし」
 「いえ、とんでもないです。でもまた機会があればお邪魔させていただきます」
 「お待ちしてますよ」
 と、玄関前で適当に話を済ませ、3人は神社を出た。
 「しかし、けいちゃん、神社に住んでるって…すごいね」
 「やっぱり驚いた?」
 「そりゃそうよ、こんな長い階段通ってどこに出るかと思ったら神社で、しかもその場で『ここが私の家よ』
  って言われて驚くなってほうが無理だってば」
 「あはは〜、ごめん。前もって言ってもよかったんだけどね」
 しかし、やはり彼女も神社の家の娘ともなれば、巫女さんなんだろうか。
 「ねぇ、けいちゃんって巫女さんなの?」
 「あ、私もそれが気になってたです」
 横から佐伯さんも質問する。
 「まぁね。でも、なんか私の柄じゃないって気もするんだけど、一応」
 柄じゃない…全くもってそのとおりだなぁとは思ったが、口には出さないでおいた。
 「さてと、そろそろ御堂のバカの部活も終わってる頃だろうし、さっさと雨宮宅に向かいましょ」
 「うん、そうだね」
 「巫女服の越智さんも1度見てみたいです…」
 「う…また今度ね…」


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