朝。
私の部屋は東窓になっているので、カーテンさえ開けていれば快適に目覚める事ができる。
だが、今日はその目覚めも少し重かった。
昨晩の明晰夢のせいだろう。
あの夢は…なんなんだろう?
そういえば、昨日もこんな調子で同じような夢を見た気がする。
いや、確かに昨日も何か変な夢は見た。
…としたら。
関連性があるのかもしれない。昨日の夢と今日の夢。
ならば、あれは…公園で遊んでいるかのような、じゃなく、まぎれもなく公園で遊んでいる、ということになる。
だが、どうにも腑に落ちないのは、何故そんな夢を見るのかということ。
私には幼い頃の記憶があまり残っていない。
童心に帰ってはしゃぎたいという潜在的な意識があるのかもしれない。
それが、ああいう夢を見せている、としたらまだ合点はいく。
あるいは…。
私が、何らかの形で忘れた、あるいは捨てた記憶の断片のようなものなのかもしれない。
それもまた考えられない事もない。
しかし、まだあの段階ではどちらとも言えない。
もしかしたら、これからもしばらくあんな夢を見るのかもしれない。
だとすれば、あの夢の正体も分かる。
ただ、奇妙な夢…。
それだけじゃないような気は感じた。
だが、もうしばらくは自分一人で考えてみよう。
これがなにかしら、自分に不快を与えるような夢に発展すればその時にでも珪子なりに相談すればいいことだ。
さて、今ので5分は布団の中でぼ〜っとしていたのと同じ扱いになる。
連日、同じ遅刻を繰り返すわけにはいかない。
というわけで、そこから早め早めに準備を済ませる。
今日も弁当はお休み。理由は時間がかかるから。
ただ、学食を2日続けてもなんだから、今日は朝のうちにコンビニでパンを買って行こう。
う〜っ、寒っ!
吐いた息が白い。
始めはもうそんな季節なんだなぁとか思ったりもするけれど、さすがに11月も半ばを過ぎれば毎朝、
当たり前なのでそんなに気には留めない。
むしろ、気に留めるのは時間のほうだ。
今日は早めに家を出ているから問題はない。
普通に歩いて駅に向かい、そこから電車、降りてまた歩き。
学校の近くにあるコンビニで昼食のパンを2〜3個適当に買う。
そして袋に詰められたパンを受けとってちょっとだけ雑誌コーナーへ。
別にこれといって目的があるわけじゃないけど、なにげに足を向かわせたくなる場所だ。
「あれ?綾乃、今日は早いな」
「ん?」
そう言って後ろから声をかけてきたのは和也だった。
「な〜んだ、和也か」
「な〜んだはないだろ。そういう時はせめて「おはよう、御堂くん」くらいが常識だろうが」
「あ、それもそうだね、おはよう」
言われてふと気付く。
ちょっといじわるしちゃったかな?
「う〜む…越智に言われるならともかく、綾乃にそういうセリフ言われるとは心外だったなぁ…」
「それじゃまるでけいちゃんが常識ないみたいじゃない」
「普段はともかく、相手が俺になるとあいつは常識のかけらもないぞ」
「そういうことは本人のいる前じゃやめようね」
「分かってるよ。本人がいないから言ってるんじゃねえか」
「ふ〜ん。たいした度胸ね?」
「おうよ!強心臓の御堂くんとでも呼んでくれ」
「あんたって、もしかして鈍い方?」
「失礼な!決して鈍くはないぞ!それこそあいつじゃねーんだから」
「で、いつまでボケ続ける気?」
「…へ?」
その冷ややかな声は和也の後ろから聞こえた。
「…どうやら随分好き放題いってくれてるみたいね、御堂くん」
珪子が笑顔で和也の背後に立っていた。
もちろん、その笑顔は120%ひきつっている。
「お…越智…さん…おはよ…」
「え〜っとね〜、私、今日お昼ご飯買うお金家においてきちゃったんだ〜。和也、もしよかったらでいいんだけど、
貸しといてくれない?」
「は…はい…それくらい…」
私はつっこむ言葉もなく、ただ横で苦笑している。
でも、こういうのもまた幸せの一つの形…そんな気がした。
そう考えれば、苦笑もだんだんと心からの笑顔になっていく。
「あはは…」
「ん?どうしたの、綾乃?」
「ううん、なんでもない。ただ、やっぱしいつも通りだなぁ、って」
「いつも通りといえばそうね。本当、こんな調子で卒業までいくのかと思うと、やんなっちゃう」
「俺は卒業で終わるとも到底思えねーけどな」
「絶対終わらせる!できることなら今すぐにでも終わらせてやる!」
「あ〜ムリムリ。お前のすぐ手が出る性格じゃ半永久的にムリ」
「なんですって〜!!」
でも、私にはそれもまた日常の幸せの形の一つに見えた。
こういう時、私は、やっぱりこの二人あっての私…そんな気分になれる。
この幸せはいいなぁ…心からそう思えた。
そして、いつもながら、この幸せが、できる限り長い間続きますように、とも。
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