「はい、越智でございます」
 「あ、もしもし?母さん?あたし。珪子」
 「で、どう?」
 「綾乃、学校に来てないみたい。なんか、先生が電話かけても繋がらないらしいの」
 「そう…何もなければいいけど」
 「私、これから早退して綾乃の家に向かおうと思ってるんだけど…」
 「それはだめよ。私が向かいます。あなたは学校での万が一の事態があった時の為に残りなさい」
 「…万が一ってことは…」
 「私が綾乃さんを抑えられなかった時のこと…決して有り得ない話ではないわ。もしその時は、冷静に対処してね」
 「…うん、わかった。それじゃ。無事を祈ってるよ」
 「ありがとう」

 空はどんよりと曇っている。
 いつ雨が降ってもおかしくないくらいに。
 そう言えば、私が最初に空を朱に染めたのはこんな天気の日だった。
 きっと、今日は綺麗な赤が似合う、そんな一日になるに違いない。
 そう思うと、心の底から笑いがこみ上げてきた。
 くすくす…。
 今日は朝から電話が鳴り響いた。
 うるさい。
 だから、バラバラにしてあげた。
 居間にプラスチックと金属の破片が無数に散らばっている。
 私が気持ち良く寝ているのにうるさい音を立てた電話が悪い。
 さて…もうそろそろ、綺麗な赤が見たくなってきた。
 どこだったらたくさん見れるだろう?
 街中は混ざりっ気のある色が多すぎて赤が目立たない。
 やっぱり、公園みたいな、あまりものがたくさんないところがいい。
 そうなると…学校だ。
 学校の校庭は広いから、あそこなら綺麗な赤が見れそうだ。
 あそこに行こう…。
 ぴんぽーん。
 インターホンの音だ。
 誰かが来たらしい。
 ちょうどいい。
 今来た人を赤く染めてしまおう。
 ガチャリ。
 私はゆっくりとドアを開けた。
 「こんにちわ、綾乃さん。今からお出かけですか?」
 「…」
 この女の人、誰だったっけ…?
 どこかで見たことあるような…。
 「…そうですか、もう、完全に封印は解かれてしまったのですね…。でしたら、手加減は無用のようですね」
 そう言った途端。
 ビュオッ。
 頭部目掛けてハイキックをしかけてくる。
 馬鹿だ。
 私相手に、生身の人間が敵うものか。
 バンッ!!
 「え…?」
 ハイキックが届くか届かないかの位置で、その足は爆弾でも設置されていたかのように、木端微塵に弾け飛んだ。
 目の前にいる女の人は、何が起こったか分からない、という表情のまま、受け身も取れずに地面に倒れこんだ。
 「そ、そんな…これほどまで力が増幅されてるなんて…」
 鮮血の赤が、玄関を染めた。
 もはや原型を留めていない足はもちろん、その足が繋がっている体からも噴出している。
 実に綺麗な色だ。
 「ふふふ…所詮貴方達なんて血の詰まった皮袋同然…」
 「力が見えない…姉さんは一体、どんな封印をかけて…」
 「ああ、母さん?母さんが私を閉じ込めたのは言わば諸刃の剣だったのよ。やっと出られたから、今の私の力は
  昔の比較にならない…」
 そっか。この人、あっちの母さんの妹だったんだ。
 別にそんなことどうでもいいけど。
 私を閉じ込めたことなんてどうとも思っちゃいない。
 どちらにしろ、私の視界いっぱいに綺麗な赤を散らせてくれるのだから。
 グシャッ。
 ブシューッ。
 最後は、大型トラックに潰されるような感じだった。
 上から圧力をかけたほうが、勢い良く血が出るかな…。
 そう思ってやってみた。
 効果は結構あった。
 綺麗に血が飛び散っている。
 血の赤と、その飛び散り方には言葉で表せない美しさがあった。
 学校に行けば、これよりもっとたくさん、血が見れるんだね…。
 学校に行こう…。


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