それにしても。
 今日はあまりに話の展開が進みすぎた。
 それも、思いっきりマイナス方向へ。
 正直言って、大分気が滅入っている。
 だが、それは私だけじゃない。
 珪子も同じだ。
 珪子が滅入っている時は、私が元気を分けてあげなければならない。
 いつも珪子が私にそうしてくれているように。
 そうやって私達は中学から今まで親友としてやってきた。
 それに、まだ和也と決まったわけじゃない。
 もしかしたら、昔に御堂と言う知り合いが他にもいた可能性だってある。
 それくらいポジティブにいかなきゃ、今回のような大きい衝撃は超えられそうにない。
 むしろ、それくらいの気持ちで立ち向かって行けば、逆に超えられそうな気がする。
 そう珪子は私に教えてくれていたから。
 山から降りて、街中に出た時、時計は8時を回っていた。
 この近くのスーパーで9時まで開いてるところ、あったっけな…。
 今日は帰りに買い物をして行くつもりだったが、ここまで遅くなることは考えていなかった。
 まぁ、こんな日もあるだろう。
 今だけでも、悪いことは忘れておこう。
 その方がきっといい道が拓ける。
 何度も何度も、自分にそう言い聞かせながら、私はすっかり夜の色に染まった町を歩いた。
 確か、この辺に9時くらいまで開いてるお店があったような…。
 「ちょっと、姉ちゃんよぉ」
 !?
 突然、見たこともない男達に声をかけられた。
 「どうしたんだい?こんな夜道で何してんだ?」
 「え?あ、あの…」
 「へへ、こんなところ歩いてちゃ、俺達に『襲って下さい』って言ってるようなもんだぜぇ?」
 「へぇ、いい心がけじゃねえか」
 「…!!」
 私はとっさに大声を上げようとした。
 ボゴッ!!
 「おっと、逃がさねぇぜ。こいつぁ久々の上玉じゃねえか」
 だが、それよりも男の拳が一瞬早く、私の下腹部にめり込んだ。
 「俺達から逃れられた女なんて一人としていねぇんだからな。覚悟しろや」
 私はその場で膝をつく。
 呼吸が出来ない。
 声も上げられない。
 逃げられない…。
 助けて…。
 和也、助けて…。
 
 闇。
 漆黒の闇の中に、私は一人ぼっちだった。
 地面に座り込み、力なく俯いているだけだった。
 力が入らなかった。
 「おねえちゃん、たすけてほしい?」
 子供の声。
 そう、いつもの夢に出てくる、あの少年の声だ。
 「…」
 「おねえちゃん、にげようとおもえばいつだってにげられるんだよ」
 「…」
 「おねえちゃんにはそれだけのちからがあるんだから」
 「…」
 「ボクとおなじだけのちからが、ううん。それいじょうのちからが」
 「…」
 「だって、ボクはおねえちゃん、そのものなんだから」
 「…!!」
 「しらないおじちゃんとおばちゃんがしんで、ようやくボクもじゆうになれたんだよ。おねえちゃんのもとに
  かえってきたんだ」
 「…」
 「おねえちゃんのなまえはあやの。わたしのなまえもあやの。『みどう あやの』」
 …その瞬間、私は全てを思い出した。
 この少年は、少女だったこと。
 昔の私そのものだったということ。
 私の生みの両親は、私自身がこの力で殺したこと。
 それから、退魔士だった雨宮夫妻に引き取られ、記憶を封印されていたこと。
 私のもとの名は、『御堂綾乃』だったこと。
 そう、御堂和也の妹であり、私の力が暴発した中を、和也は唯一生きていたこと。
 そして、和也もまた、記憶を封印されていたこと。
 「おもいだした?おねえちゃん」
 「…」
 私は無言で頷いた。
 「なら、もうだいじょうぶだよ。おねえちゃんにかてるやつなんて、だれもいないんだから」
 
 「おい、こいつ、大丈夫かよ」
 「心配ねえさ。写真撮ったし誰にも言えねぇだろうよ」
 「いや、そうじゃなくてよ」
 「なんだお前、今更罪悪感か?」
 …視界が開けた。
 最初に見えたのは、赤い満月だった。
 バシッ!
 「ぐああっ!!」
 正面にいた男の右腕の肘関節から下が吹っ飛んだ。
 「おっ…俺の腕が、俺の腕があああぁぁぁぁっ!!!!」
 「なっ!?なんだ!?どうした!大丈夫か!??おいっ!」
 なんだ、こうすればいいのね。
 恐ろしい力だと思っていたけど、なんてことない。簡単に制御できるじゃない。
 ドムッ!!
 パンッ!!
 左にいた男の胸に風穴を開け、右側の男の首から上を粉微塵に吹き飛ばす。
 「い…一体なにが…ひいぃえあああぁぁぁぁ!!?」
 ゲシッ!!
 ボゴンッ!!
 中央の男はそれ以上喋ることは出来なかった。
 肩まで地面にめり込んでいる。
 …ようやく、静かになった。
 周り一面は、血の色で赤く染まっていた。
 なんだ。赤って色、見方によればとっても綺麗じゃない…。
 まるでマッチの炎の様に…。
 そして、沈む太陽のように。
 素敵。
 素敵な世界だった。
 見たい。
 もっと、見たい。
 綺麗な赤い色が。
 時間が経てば、赤が茶色になってゆく。
 汚い赤は見苦しい。
 もっと、綺麗な赤が見たい。
 世界中が、赤く染まればいいのに…。
 まぁいいや…眠たいし、今日はもう帰ろう…。
 続きはいつだって出来る。
 『ボク』に勝てる奴なんて誰もいないんだから。

次の頁『最終日・I〜紅(くれない)〜』へ。

『P・P』のトップに戻る。