「あら、綾乃じゃない。それに佐伯さんも」
「え?けいちゃん、そのかっこ…」
境内に珪子は確かにいた。
だが、先刻とは打って変わり、珪子は袴姿だった。
「え?あ、これね〜、もうちょっとしたらお客さんが来るのよ。それもどっかおっきな神社の神主さんらしくてさ。
それのせいでうちの父さんが着てろってうるさいのよ」
父さん…さっきの虚無僧の男のことだろうか。
それに、えらく着替えが早いような…。
だが、それを尋ねてしまえば私達が今の『テスト』を見ていたことを悟られるだろう。
とりあえず、自然にいこう、自然に…。
「なんか、新鮮ですね〜。似合ってますよ」
「え?そ…そっかな?あはは、ありがとね〜」
「柄じゃないなんて言ってましたけど、とんでもないです。その長い髪が更にそれっぽい雰囲気出してますよ」
「ん〜…あんましそんなこと言われたことないからちょっと恥ずかしいなぁ…」
「そんなことないよ、けいちゃん」
「またまた、綾乃まで…あんた長い付き合いなんだからちょっとくらい抵抗感じてくれてもいいじゃない」
ほっ。
どうやら、さっきの会話は私のことを指しているのではなさそうだ。
「どうしたの、珪子。あら、貴方達は…」
突然、珪子の母親が姿を見せた。
「あ、お邪魔してます」
「いえいえどうも、こちらこそお気付きもしませんで…」
この人もぱっと見、さっきの虚無僧の男が言っていたほどの落ち込みぶりは感じない。
「あ、そういえば綾乃さん、最近、悪い夢を見たりとかはありませんか?あれば続きをいくらか聞かせていただきたいの
ですが…」
夢の続きか…。
「続きと言うよりも、今まで伝え忘れていたことがあるんです。それでかまいませんか?」
「伝え忘れていたこと…ですか。そちらの方が手がかりが掴めそうです。むしろそちらのほうをお願いします」
そう、夢で子供を見たということ、そしてその子供が男性である、と言うことを私はまだ伝えていなかった。
「なんだか、取り入ったお話になりそうですから…私はこれで失礼させていただきますね」
「あ、ごめんね佐伯さん。ここまで付き合わせちゃって…」
「いえ、かまいませんよ。それでは、また明日」
そう言って、佐伯さんは神社の階段を降りていった。
「佐伯さん、まったね〜」
珪子の元気な声が山一帯に響いた。
ここに来るのは今日でもう3度目になる。
1度目は珪子の母に招待されて。
2度目は、私が直接頼み込んで。
そして、昨日に続いての、3度目。
思えば4日に3度もお邪魔してしまっている。
「お待たせしました、綾乃さん」
そして、いつもの様にお茶を出してもらい、これから私の夢の話をする。
「すいません、何度もお邪魔しちゃって…」
「いえいえ…では、早速本題に入らせていただきますが、よろしいですか?」
「あ、はい」
「綾乃さんは、私に伝え忘れていた事があると先程おっしゃいましたね…どのようなことですか?」
「ええ…昨日、ここで『夢の力』が暴発してしまいましたが、その肝心な夢の内容なんです」
「確かに…今まで、どのような夢かお伺いしていませんでしたね。一番重要なことですのに…」
そこから、私は一通り、全てを話した。
気が付くと公園の中に私がいたこと。
小さい子供達がたくさんいること。
その中に歌で人を操る奇怪な少年がいること。
そして、彼に引き込まれようとすることで、私が力を暴発してしまっていること。
「…そうでしたか、そのような夢を…」
そう一言言うと、珪子の母親は顔を俯かせた。
「綾乃さん、今朝、私にお会いしたのを覚えていらっしゃいますか?」
「え?今朝…ですか!?」
なんのことだろう。
私にはさっぱり覚えがない。
「綾乃さん、貴方が今朝目覚めた場所は玄関…でしょう?」
「え!?」
「実は今朝早く、私は一人で貴方の家に向かったのです。その時、貴方は玄関前で倒れていたので私が声を
かけたところ、ちゃんと反応していましたよ」
「…」
…少しだが、思い出した。
私は今朝、この人と意思のないやりとりをしていたのだ。
「言いにくいことですが、正直言うと、あの時の綾乃さんは普通じゃありませんでした。まるで、なにものかに
操られているような…そんな感じでしたが…操っているのは、その『夢の少年』だったわけですね」
「ええ、そうなります…」
「もう一つ、伝えておくことがあります。その『夢の少年』ですか…あなたの潜在意識の中で、御堂という
姓を名乗っておりました」
「御堂!?」
「それが少年だと聞いて、私も愕然としたのです。いつも珪子が名前を出すお友達の名前と一致することに…」
「…」
「そして綾乃さん、貴方の見た夢は、おそらく貴方自身が昔体験した記憶の断片ではないでしょうか?推測ですが、
その御堂さんの暴走の渦中にありながら、かろうじて難を逃れた唯一の人間…それが再びここで引かれあって…
とは考えられませんか?」
「そんな…」
あまりにも、話が唐突だ。
「夢の中に出てくる子供が少年であるとすれば…恐らく」
…少年でなかったら、何か変わるのだろうか。
などと考えてみたが、もはやそんなことはどうでも良かった。
「とにかく、翌朝、もう1度伺います。夢を見る眠りとは非常に浅い眠りです。基本的には起床の2〜3時間前が
可能性として高いようです。その時に、もっとしっかりした確証を得ないと、現時点ではなんとも…」
「そうですか…」
「突然こんなことを申しても、理解できないと思います。むしろ理解できない方が当然なのです。今はあまり
深く考えないことですよ。今日はゆっくり睡眠をとってください」
「はい…」
がたんっ!
部屋の向こうで大きな音がした。
「…あの子も、貴方と同じように衝撃を受けたようですね…」
あの子…珪子もか。
そりゃそうだろう。私達3人はずっと親友としてやってきたのだから。
いや、私はもうそれ以上のものが…。
「あ…もうこんな時間ですね…長い間お留めしてしまってごめんなさいね」
「いえ…今日は何も考えず、ゆっくり休みます…」
「一人で、帰れますか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
そう言って、重い足取りながらも、私は神社を出た。
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