はぁ、はぁ…。
いったい何段あるのか見当もつかない石の階段を私達は昇っていく。
こんなとこから毎日通学しているから珪子は毎日あんなに健康なんだろうか。
そう思うほど、来るたびひ〜こら言ってしまうような場所だ。
そりゃ足腰も鍛えられてるし元気にもなるだろう。
逆に自分が普段いかに鍛えてないかを痛感するほどだ。
もちろん、私だけではなく、隣で歩いている佐伯さんも同じ事を考えているだろう。
その中腹くらいまで来た時。
「あっ、雨宮さん、そっち!」
「え?」
佐伯さんは私の手を引き、すぐ傍の石灯籠の前に隠れた。
「あの雑木林の向こう…見えますか?」
「あ…けいちゃん…」
そこに確かに珪子がいた。
しかし、予想に反して珪子は制服姿だった。
だが、それよりも目を引いたのは。
珪子の向かい側には虚無僧のような恰好の男が突っ立っていた。
二人とも、一歩も動かない。
そのまま数十秒が経過した後、虚無僧の男が足下の石を拾う。
ここからでも確認できるくらいの大きさはあった。
!
男はその石を珪子に向かって投げつけた。
『危ない!』
しかし珪子は少しも怯むことなく、なんと飛んできた石に向かって正拳づきを叩きこんだ。
石はここから見えなくなるくらい粉々に砕け散った。
その際、瞬間的に珪子が前進していたようにも見えた。
石を砕いた右手は既に引かれ、肘が体の後ろになっている。
「よし、次は五段突きのテストだな」
虚無僧の男が口を開いた。
テスト…?
一体、なんのテストなんだろうか…。
珪子は無言で頷く。
そしてそのまま、虚無僧の男を通り過ぎ、そのあたりではやや大きめの木の正面に立つ。
「好きな時に打ちこんでみろ」
虚無僧の男の声はここからだとやや聞き取りにくい。
珪子はやはり無言で頷くと、木に向かって構え、その姿勢のままじっとしている。
一閃。
さっきと同じ正拳づき。
しかしその後、なにかが当たったような音がした。
視覚でとらえることはできなかったが…。
メキメキ…ズズーン!
私は開いた口が塞がらなかった。
大木が…人間の、それも年端のいかぬ少女の拳で折れたのだ。
「ほえ〜…」
佐伯さんも、目を皿のようにしている。
「よし、ここまでくれば合格だろう。これくらいの破壊力がなければあれは止められん」
「…」
珪子は相変わらず無言のままだ。
「なにを案じている…?」
「ううん…だって、これが私のしなきゃなんないこと…なんでしょ?」
「私がやるよりはお前の方が適任だろう…酷かもしれんが」
「…分かってる」
ここに来て、珪子がはじめて口を開いた。
「いざとなったらこいつを使えばいい…きっとなにかの役には立つであろう」
そういって男は珪子に自分がついている杖を渡した。
杖というよりは…鉞(まさかり)というのだろうか。
「ありがとう…で、母さんは?」
「『彼女』の記憶の真相を聞いてからどうにも元気がない…どうやら触れてはいけない秘密に触れた…
そんな雰囲気を漂わせていた…」
「そっか…」
「さて、帰るか。こんな大きい音を立てたのでは、いくら山中といえど、誰かが気付くはず。
騒ぎになるのは面倒だ」
「あ、うん」
そう言って、二人は森林の奥深くへ消えていった。
「…雨宮さん?」
「…うん」
私達は、お互い顔を向かい合わせるしかなかった。
興味本位で来てみたのはいいものの、珪子が普段こんなことをやっていたとは知らなかった。
「越智さんのあの動き…きっと秘して伝わる格闘技のものじゃ…」
「確かに、普通じゃないよね…」
「それに…『彼女』って誰なんでしょうか…?」
「…もしかすると、私のことかもしれない」
「え…」
「私、昨日も珪子の家に来てたの。珪子のお母さんに呼ばれて、ね」
でも、記憶を聞く、というのはいまいち理解できない。
「いっそのこと、このまま神社に向かってみてはどうでしょう?」
佐伯さんが突発的に提案する。
「なんでまた?」
「反応を見るんですよ。このまま雨宮さんが行って、気まずい雰囲気が流れそうならその『彼女』イコール
雨宮さんって判断基準で。逆に何ともなかったらノットイコールってことです」
「なるほどね…論理的には、一番簡単に確証を得られる手段だね」
やはり、佐伯さんはそう言う所では鋭いひらめきを見せる。
「どうします?行くなら私もお一緒しますけど」
「うん…そうだね。それじゃお願い」
…私には確かめる必要がある。
直感だが、そんな気がしたのだ。
それに、記憶の真相を聞く、という言葉が少し気になった。
私の幼い頃の記憶の真相を聞いて、と言うことなら、それこそ私が求めていたものだ。
育ての両親が死んだ2週間前から、私が本来追い求めていたものだ。
しばらく夢のせいで脱線していたが、もともとの疑問の始まりはそこにあった。
それを確認できるなら…多少、酷な結果になったとしてもかまわない。
決意を胸に、私立ちは階段を再び昇り始めた。
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