「ん、雨宮と越智か。もう大丈夫なのか?」
「…へ?」
「へって…お前達、体調不良で保健室に行ってたんだろ?早く席につけ」
「は、はい…」
「…さて、え〜、どこまで話したかな…あ、そうだ、長江のとこまでだな。この長江を境に中国では気候が
まったく違う。北は寒冷で小麦を主食としているが、南は温暖で日本人と同じ米食だ…」
私達にはまったく理解できなかった。
いつも変わらない授業が行われている。
それだけならまだしも、さっき破損したはずの地図を止める金具に引っ掛け棒に破損の跡がなく、まるで
なにもなかったかのようだった。
掃除ロッカーにも、破損した金具が刺さっていた形跡は見当たらない。
…これは一体どうしたことだろう?
私達は夢を見ていたのかと錯覚するくらいだ。
いや、実際に夢でないことは分かる。
走った後の汗が乾いて多少肌寒さを感じてるし、机の上は私が教室を出ていった時と同じだ。
多分、私だけじゃなく、珪子も不可解な状況だろう。
まぁ、なにごともなく過ごせると思えば、多少はラッキーだ。
…少なくとも、さっきの超常現象を見るような毎日よりは。
誰の楽天さがうつったかは知らないが、最終的に結論はこう出た。
…と!
考え事が終わったら、授業に集中しよう。
今までで授業時間を30分は無駄にしていることになる。
聞いてなかった分は黒板に書いてあるものだけでも写しておこう。
今日の授業がすべて終わったことを告げるチャイム。
クラスの全員が一斉に解放感を感じ、騒ぎ出す時間だ。
もちろん、それは私も例外ではない。
なにしろ、今日は5時間目の事もあるので疲れも溜まっていている。
さて、これからどうしたものか。
とりあえず掃除当番だとか、そう言うのは今日はないのであとは自由だ。
「綾乃」
「え?」
考え事をしている間に、目の前に珪子が来ていた。
「わたし、今日ちょっと家の用事があるから、先に帰る。ごめんね」
「ん…わかった。んじゃね」
「うん。じゃ、また明日ね」
そう言って珪子は振り向き、教室から姿を消していった。
家の用事、かぁ…。
「雨宮さん?」
「え?ああ、佐伯さんかぁ」
気がつけば、今度は珪子と入れ替わりで佐伯さんが私の席の前に立っていた。
「今の越智さんのお話、ちょっと聞いてたんですけど…」
「え?うん、今のがどうかしたの?」
別に聞かれてまずいような内容ではない。
これが私の能力だとかそう言うものであれば答えられないこともあるが別にその辺りは問題無い。
「家の用事ってことは、越智さん、きっと袴とかそんな服装なんじゃ…」
「へ!?で、それで?」
相変わらず突拍子も無い事を言ってのける。
もはや持ち味としか言いようがないかもしれない。
「ちょっと、越智さんとこの神社に行ってみませんか?どんなことやってるのかも見てみたいですし」
「ん〜…それっていいのかな〜?」
私は苦笑するしかなかった。
「ね、言ってみましょう。楽しそうじゃないですか」
「そこまで言うなら…でも、ちょっとだけだよ」
結局、根負けしてしまった。
私って、もしかすると他人に引っ張られやすいのかも…。
「えっと、ちょっと待ってくださいね。私、今日は教室の掃除なので」
「あ、うん。んじゃ、食堂に行ってるから」
「はい。それじゃ、終わり次第食堂の方に向かいますね」
こうして私は1人で食堂へと向かい、カップのジュースを買って飲みながら一人ぼーっとしていた。
はぁ…。
しかし、珪子とは長い付き合いになるが、袴姿と言うのは未だに見たこともない。
まぁ、本当にそう言う格好をしているのか、と言うのもあるが。
正月の催事ですらそう言う格好をしていなかった珪子が…?
むしろ、もっと別の用事だろうと私は思う。
半分分かっていても今回の佐伯さんの提案に従ったのは、半ば強引に決められたのと、僅かながら好奇心が
あったせいかもしれない。
まぁ、行くと決まったからには行って確認すればいいことだ。
「あ、お待たせしました〜」
「ん、そんじゃ行こっか」
「は〜い」
そして私達は珪子の家の神社へと向かった。
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