…。
「ひさしぶりだね、おねえちゃん」
!?
気が付けば、目の前にいつもの『夢』の少年が立っている。
「まだ、くるしんでるんだね、おねえちゃん」
苦しんでる?
「ううん、くるしむふりをしてるだけだよ、それは」
相変わらず不可解な言葉を並べる。
「まえみたく、またふきとばしちゃえばいいんだよ」
吹き飛ばす?
そこは、もう公園ではなかった。
一寸先すらも霧に覆われているような、何も見えない場所だった。
なのにもかからわず、『彼』の存在は確認できる。
それがあまりにも不気味だった。
「ねぇ、おねえちゃん、なにかしゃべってよ」
…?
そういえば、私はこの夢の中で言葉の一つも発したことはない。
「おねえちゃんにはことばはいらないの?ことばがなくてもふきとばせるの?」
「…さっきから聞いてれば、あなたの言うことは私にはまったく分からないことばかりなんだけど…どういうこと?」
「わからないって、わかってるじゃない。わからないふりをしてるだけじゃない、おねえちゃんは」
「真剣に分からないわよ」
「そっか…んじゃもういっかいだけだよ」
『彼』がそう言った途端、突然だった。
霧が一気に空へ舞い上がっていく。
そこに見えたのは、いつもの赤い公園。
「おねえちゃん、こっちにおいでよ」
『彼』はブランコのほうに駆けていく。
駄目だ!
今、直感的に感じた。
そっちに行っては駄目だ。
私が私でいられなくなってしまう。
『彼』はそんなこともかまわず、ブランコを立ち上がってこいでいる。
早くも、ブランコは元の位置から前後40度くらいの角度で揺れている。
そんな光景を、私はやや離れた位置から傍観している。
だが、なにかおかしい。
ブランコを支える柱が少し曲がっているような…。
それを『彼』に伝えるため、1歩歩み寄ろうとした瞬間。
どんっ。
誰かが私の背中を押したような気がした。
ばちん!
こいでいたブランコの両方の鎖が、いとも簡単に切断された。
危ない!
あのままいくと、ブランコの柵に顔面から激突することは必至だ。
ガシャーン!
それこそ、突然だった。
私は現実の世界に戻っていた。
授業中だというのに、私は椅子から立ち上がっていた。
どういうことか、ひどく疲れている。
額からとめどなく汗が出てくる。
肩で呼吸するほどしんどい。
それだけであればよかったが、それだけではなかった。
地理の教師用の大きな地図を引っ掛けた金具と、それを引っ掛けるために使われた金属性の棒が同時に切断された
らしく、地図は床に落ち、黒板の溝にあたり、教室中がどよめいていた。
金属棒の破片は私の列の後ろにある掃除ロッカーまで吹っ飛び、そのままロッカーにささってしまっている。
もはや授業どころの騒ぎではなかった。
こんなこと…昨日もあったような…。
「綾乃ぉっ!」
珪子が私のところまで駆けつけ、手を引く。
「え…ちょっと、けいちゃん!?」
「いいから、来なさい!」
そのまま手を引かれ、私は珪子と共に教室を出た。
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