くしゅんっ!
 …なんでだろう。気がつけばここは玄関だった。
 こんなところで私は寝ていたのだろうか?
 昨日の晩には布団の中にちゃんと入った…その記憶だってあるというのに。
 理解できないのは夢の中だけで十分だ。
 …それにしても。
 今回の夢はあまりに奇妙だった。
 何しろ、目が見えない。
 そして、私が自分の意思とは関係なく喋っている。
 …もうしばらくは何が起こっても驚かないような気がした。
 いや、待てよ。
 ひょっとすると、あれは私の声じゃないのかもしれない。
 私と声の似通った人の声なのかもしれない…。
 でもあの時、確かに声は『綾乃』と名乗った。
 それであの声は私の声だと証明された。
 …認めたくない。
 だってあれは私の意思ではないのだから。
 でも、名前が一緒で声も似ているだけのそっくりさん、とは考えにくい。
 でも…。
 くしゅんっ!
 やめやめ。
 こんなところで考え込んでどうになるわけでもない。
 とりあえず、さっさと着替えて学校に行く準備をしなくちゃ。
 壁にかかっている時計は…7時過ぎ。
 まぁ、大体いつも起きる時間と同じくらいだ。
 とりあえず自分の部屋に戻って制服に着替え、再び一階に降りてきていつものようにシリアルを食べ、
 空いた食器を台所へ持っていき、水すすぎだけして学校へ向かう。
 あと、昨日にしろ今日にしろ寒い目覚め方をしちゃったから風邪薬だけ飲んで家を出た。

 「え〜…ここは主語が省略されているから訳の時に注意が必要だな…」
 ちょっと授業が退屈になってきた。
 べつに、不真面目なわけじゃない。
 自慢するわけではないが、これでも授業はちゃんと真面目に受ける方だと自負している。
 ただ、英語のグラマーの先生って、この先生だけかどうかは知らないが、同じことを繰り返し説明する
 ことが多く、途中でだれてくる。
 そんなにしょっちゅう言わなくてもいいのに…なんて思ってしまう。
 周りを見まわすと、やっぱり授業にだれを感じるせいか、半分近い生徒が居眠りしていた。
 私もつられて眠くなってくる…。
 こつっ。
 あちゃ…
 右手を消しゴムにぶつけてしまい、消しゴムが机の下に落ちる。
 そのまま消しゴムはころころと転がり、斜め前の席まで転がっていく。
 …やっちったぁ。
 仕方なく、そこまで手を伸ばして取ろうとする。
 すっ。
 …あれ?確かこの辺に…転がっていったはず…。
 こつん。
 靴に何かが当たった感触。
 消しゴムだ。
 転がってきた方向は…さっき転がした斜めの席。
 そこに座ってた男子生徒が拾ってくれたのだろう。
 「ありがとっ」
 多分、彼には聞こえてないだろうが私はそう一言呟き、彼に目配せした。
 拾ってくれた彼は無表情のまま、別にさしたる変化のないまま正面を向き直した。
 照れ屋さんなのかな?
 まぁ、感謝しておこう。


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