2月10日。
 生きていれば、この日は綾乃の誕生日だった。
 あれから、3ヶ月近くが過ぎ去った。
 私と御堂、それに奇跡的に助かった佐伯さんは、綾乃の墓前にいた。
 『平成十二年十一月十四日  雨宮健太郎
              妻   千恵
      同  二十九日 長女  綾乃  ココニ眠ル』
 「…ここでよかったの?」
 「本当は、御堂家の墓に納めるのがいいんだろうけど、綾乃は雨宮家として、幸せに過ごしてきたから…。
  御堂の姓を名乗ってた時や、両親を失って以後の綾乃のことを考えたら、こっちがいいだろうよ」
 「…そっか。あんたがそういうなら、私は何も言わないけど」
 確か、生前の綾乃は柑橘類が好きだったな…そう思って、蜜柑をいくつか墓前に供えた。
 「そういえば、2月10日の花はえんどうらしいですね…」
 「ん?」
 佐伯さんが突然口を開く。
 「2月10日の花?なにそれ?」
 「ちょっとした占いみたいなものですよ。でも、それだけならいいんですが…」
 「???」
 「えんどうの花言葉って、ご存知ですか?」
 「知らないけど…珪子、お前知ってるか?」
 「ううん…」
 「えんどうの花言葉は『永遠の悲しみ』だそうです…あまりにも皮肉すぎますよね…」
 …。
 確かに、あまりにも皮肉だ。
 占いとは言え、『永遠の悲しみ』を暗示する日に生まれてきた、ということか…。
 「痛っ!」
 「どうしたの!?」
 「いえ、ちょっと、この飛び出してる木の枝で指切っちゃいました…」
 …相変わらず、行動パターンがさっぱり読めない。
 物知りな雰囲気を見せたと思えばすっとぼけて怪我をする…。
 「まったく…人騒がせなんだから」
 苦笑するしかなかった。
 綾乃も、私達に対してはきっとこんな気持ちだったんだろうなぁ。
 なんとなく、そんな気がした。
 「あ…」
 雪だ。
 いつになく寒いと思ってはいたが、雪が降ってきた。
 「そういえば、今年2回目の雪、だよな…」
 「あれはもう去年だから、一応今年と言う考え方じゃ初雪じゃないの?」
 「うっせー。そんな細けーこと、どーでもいいんだよ」
 そっか。
 よく考えれば、あの日以来、雪、降ってなかったな…。
 「もしかして、私が血を出したから、雨宮さん、怒っちゃいましたかね?」
 「え…?」
 …単なる偶然…なわけないよね。
 「あははっ…きっとそうだよ」
 綾乃はもうここにはいないけど、空からずっと見守ってくれている。
 確信はないけど、そんな気がした。
 きっと、横にいる御堂も佐伯さんも、同じ気持ちだろう。
 「…相変わらず、必要最小限以上のことはやらねえな、あいつ」
 「でも、一番分かりやすいですよね。すぐに気付けるほどに」
 「『愛してその人を得ることは最上である。愛してその人を失うことはその次によい』か…」
 「ん?どした?」
 「ううん、今なら、あの言葉の意味が理解できるかもな、って」
 「なんのことだ?」
 「いいの。こっちの話」
 「???相変わらず、変な奴だぜ」
 「まぁね」
 過去の記憶で振り回され続けた綾乃。
 でも、もうその呪縛はない。
 綾乃の天使の羽は白く清められ、飛び立つことが許されたから。
 飛び立った綾乃は、こうして空から私達の身近にいることを知らせてくれる。
 そして、私達の心の中にも。



〜Fin.


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